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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)326号 判決 1960年10月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石川惇三の上告理由第一点について。

原判決が、その事実摘示において被控訴代理人は新乙四号証の二の成立を否認した旨摘示していること並びにその判決理由において論旨摘録の如く判示し被控訴人(上告人)が右新乙四号証の二の委任状に自ら認印した事実を認定していることは所論のとおりである。しかし、判決理由の判示は原判決挙示の各証拠を総合した結果原審の認定するに到つた事実を明らかにしたものであつて、事実摘示と何等矛盾するものでなく、また理由不備の違法もない。所論はとるを得ない。

同第二点について。

論旨は、原判決が公正証書作成のため公証人に提出した委任状(新乙四号証の二)の印影と印鑑証明書(新乙四号証の三)の印影とが相違していることを認めながら、執行力排除を求める上告人の本訴を排斥したことを非難するに帰する。

しかし、上告人の本訴は、民訴五六〇条及び同五四五条に基く請求異議の訴であるところ、所論の委任状と印鑑証明書との印影の相違は原判決も認むるところではあるが、原判決は更に右委任状は上告人主張の如き偽造のものでなく、真正に成立したものであつて、その代理人に選任された別役道久は正当な代理権限に基いて公正証書を作成したものである趣旨を認定判示しているのであるから、前記印影相違の問題は単に公正証書作成に関する手続上の形式的不備に止まるものというべきである。従つてかかる事由を以て、本訴請求異議により債務名義の執行力を排除するを得ないことは、請求異議の訴の性質に照し明らかである。されば原判決は結局正当に帰し、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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